注目のピアノ三重奏団「葵トリオ」独占 インタビュー in Singapore
いま、国内外から注目を集めている人気のピアノ三重奏団「葵トリオ」が
シンガポールで初のコンサートを開催。
今回、滞在中に葵トリオのインタビューが実現!シンガポール公演の様子と合わせて彼らの魅力をレポートします。
葵トリオってどんなグループ?
3人ともに東京藝術大学出身、サントリーホール室内楽アカデミーで出会い、2016年に結成した葵トリオ。
秋元孝介さん(ピアノ)、小川響子さん(ヴァイオリン)、伊東裕さん(チェロ)3人の名字の頭文字をとり、「葵 AOI」と名付けられました。
2018年には“最難関”と言われるミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ三重奏部門で、日本人団体として初の優勝。以来、日本だけでなく、ドイツ、イタリア、フランス、チェコなどヨーロッパでのコンサートを多数行っており、演奏、録音、コーチングでピアノ三重奏の世界を開拓し続けています。
Singapore Chamber Music Festivalの招待アーティストとして来星
そんな葵トリオにとって、アーティストとして東南アジアで公演を行うのは今回が初めてのこと。
先日、シンガポールで約20年ぶりに開催されたSingapore Chamber Music Festivalに日本人アーティストとして招待され、トリオの演奏や地元のアーティストとの共演、国内外から参加した音楽愛好家へのコーチングなどを行いました。
特に今回、葵トリオにとって、アーティストとして初のシンガポール公演には特別な想いがありました。
というのも、シンガポール公演のステージとなったYong Siew Toh音楽院(Conservatory Concert Hall)で演奏するのは、実はメンバーそれぞれとしては2回目。
8年前、サントリーホール室内楽アカデミーのフェローとしてシンガポールのYong Siew Toh 音楽院の学生と共に同じステージに立った経験がありました。今回は、招待アーティストとしての初めてのコンサート。
ピアノの秋元さんは「同じステージに招待アーティストとして出演できることになり、トリオとしてキャリアが積み上げられてきたのを実感し、このシンガポールでの演奏経験が一つのステップになった」と話します。
ヴァイオリンの小川さんは「なかなか海外で同じステージに戻ってこられる機会が少ない中、ご縁を感じた。日本とシンガポールの音楽を繋ぐ一翼になれたら嬉しい」と語っていました。
Festival Concert I(Singapore Chamber Music Festival):Aoi Trio 1月27日公演
トリオにとっても思い入れのあるコンサート(1月27日)。演奏したのは以下の3曲です(アンコール含め4曲)。
モーツァルト:ピアノ三重奏曲 変ロ長調 K. 254
細川俊夫:トリオ
ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲第3番 ヘ短調 op. 65
私自身、音楽好きの友人からの情報でこの日を楽しみにチケットを予約していて、家族で参加しました。実際、葵トリオの演奏は素晴らしく、演奏を通して音楽の旅に連れて行ってもらえたような気分になりました。
特に印象的だったのは2曲目の細川俊夫さんの「トリオ」。葵トリオによって演奏されると、これまで思っていたいわゆる“クラシック音楽”とは異なる音色で、「クラシック音楽でこんな音楽表現もできるのか!」というような楽しい発見と刺激がありました。
というのも、曲の冒頭、ヴァイオリンの音色は、無風だった場所にふーっと風が吹いたような、“風”を感じる音でした。それは、まるで呼吸音くらいささやかな音。音楽記号で言うと、P P Pピアノ・ピアニッシモよりももっと小さいような音です。演奏が進むに連れて、3人の演奏がうねりをあげて突風が吹き荒れるような展開にも聞こえてきて・・・ラストはもう演奏の虜になっていました。観客としては、最後の一音まで聞き逃したくなくて、いつの間にか目も耳を凝らして聞いていて、、、会場全体、演奏が終わった後もスーッと余韻に浸るような演奏でした。
インタビューの際、その話を3人に伝えると、 チェロの伊東さんも細川さんの曲を演奏した時のお客さんの反応の大きさをステージから実感していたそうで、「日本人が作曲した曲がシンガポールのお客さんの印象に残り、知ってもらえたのが嬉しかった」と話していました。
メンバーによると、実は今回、シンガポールで演奏した3曲とも、ピアノトリオのいわゆる“王道”の曲ではないそうです。
小川さんは、「どの作品も3人で練ってリハーサルをすることで、本番お客さんの反応が見られて盛り上がってくれたのが嬉しかった。王道じゃない作品もピアノ三重奏で盛り上げていきたい」と話していました。彼らの演奏からは一つひとつの音に対して真摯に向き合い、室内楽を愛する気持ちが伝わってきます。
貴重な経験となったドイツでの留学
楽しい音楽の旅に連れて行ってくれるような葵トリオの演奏ですが、彼らの“今”を形作る上で貴重な経験となったのが、ドイツでの留学でした。
2018年、ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝した後、トリオとしての勉強を深めるため、3人団体でミュンヘン音楽大学に留学していたそうです。
その時に受けたレッスンが深く印象に残っていると伊東さんは話します。
初めてのチェロのレッスンの時に一曲弾いたあと、今日起きてからここに来るまでにあったことを説明するよう教授に求められたそうです。その際、教授から「音楽もその時々で様々なことが起こる。」として、「予定調和にならないことや映画を見ているような世界に観客を連れていくことの大切さを教えてもらった」と話していました。
小川さんは、ドイツ留学中に音楽でより自由な表現を取り入れられるようになったと話していて、秋元さんはヨーロッパでのステージで観客の反応がダイレクトに返ってくることを感じ、ステージ経験を積む中で観客と一体となって一緒に音楽を楽しめるようになり、音楽に没入できる体験ができたそうです。
シンガポール公演を終えて・・・
ドイツでの貴重な経験を経て、今回シンガポールの公演でもお客さんとの一体感をより得られたと手応えを感じている葵トリオの3人。
今回のフェスティバルでは、葵トリオのコンサートの別日に、シンガポールのアーティストとの共演や再共演のチャンスもあり、新しい葵トリオのパフォーマンスの形を模索できた貴重な経験でもあったようです。「トリオは周りを巻き込んで演奏しやすい」と話していて、「葵トリオを中心に様々な国の演奏家との輪も広げていきたい」という新しい目標も生まれていました。
葵トリオの演奏が気になった皆さん、
今後の公演予定はコチラです。日本にお戻りの際、チャンスがあれば、ぜひコンサート会場で彼らの生演奏をお楽しみください。