これまで駐在員のご家族からさまざまなご相談をいただきましたが、その中でよく耳にするのがキャリアの悩みについて。配偶者の赴任が決まったことで、泣く泣くキャリアを中断せざるを得なかった方は多いと思います。また近年、シンガポールやアメリカをはじめ、多くの国で駐在員の帯同家族が労働ビザを取ることが難しくなっているということもあり、働きたいけれど働けないという状態が長く続いてしまうということも…
そうしたフラストレーションを抱えながら、家事や育児、その他海外生活にまつわるさまざまなストレスに対処をしていると、気持ちが落ち込みがちになってしまったり、夫婦や家族の仲に影響が出てしまうことがあります。
そこで、今回は配偶者の赴任に伴うキャリアのお悩みについて、お話ししたいと思います。
パートナーの赴任が決まりキャリア中断。ストレスで生活に影響が…
配偶者の赴任が決まりこれまでの仕事を離れるとき、多くの人が不安やフラストレーションを感じるものです。仕事が大好きだった場合はもちろんですが、そうではなかった場合にも、喪失感を抱いたり、家での時間が多くなることで塞ぎがちになったり…
これまでのキャリアを離れるという大きな変化に伴い、ストレスを感じるのは当然のことです。しかし、そのストレス度合いが強く、生活のさまざまな側面で影響を感じるようになってきたり、何をやっても楽しめない、イライラする、落ち込みが強いといったうつの症状が出てきた場合、そこには生きづらくなる考え方や感じ方が潜んでいる可能性があります(こうした考え方・感じ方を私は「心の癖」と呼んでいます。詳しくは前回の記事『シンガポールこころの相談室 | 心理士・長谷川由紀 Vol.01』をご覧ください)。
こうした状況についてご相談をいただいた中で非常によく耳にした、「自分に価値がなくなったように感じてしまう」という場合についてお話ししたいと思います。
自分に価値がなくなったように感じてしまう…
職を離れたことにより、「自分に価値がなくなったような気がする」というご相談を多く受けてきました。これまで一日の大半の時間を職場で過ごしてきた方にとって、職は自身のアイデンティティーの一部となっていることもあるので、自分の一部を失ったような気持ちになることもあるでしょう。
しかし、「自分に価値がなくなった」と感じて落ち込みが強い場合には、どんな仕事に就いているか、成果、報酬、他者からの評価といった外的指標ばかりが自分の価値を決める基準となっている可能性があります。
自己評価の基準が「外からの評価」
人間は社会的な生き物なので、他者からの評価や成果といったものを全く無視して自分自身を評価することは難しいでしょう。しかし、自己評価の基準があまりにも外的指標に偏っていると、仕事や学業でつまずいたときや職を離れたときに、心理的な打撃が大きくなるものです。
ではなぜ人によってはこうした外的指標と自己評価が強く結びつくようになるのでしょうか。その背景にはさまざまな心理的要因が隠れているといわれています。
外的指標を偏重するようになるのか
外的指標を重視しがちになる背景は人によってさまざまですが、たとえば幼い頃から自分の気持ちよりも、何をしたら親が喜ぶかを重視して生きてきた、といった場合などに強まる傾向があるようです。また物理的・心理的に不安定な環境で育った場合、学業や仕事といった、自分でコントロールしやすく、数字といった目で見えやすい対象を過度に重視するようになり、不安定な中でも自分にコントロールできるものがあると確認することで少しでも安心しようとすることもあります。
上記の例に限らず、その他にもさまざまな理由で、外的指標を偏重するようになることがあります。仕事をしていることと自分の価値がどうして強く結びつくようになったのか、その背景を理解し、自分の価値をその他の基準も加えてバランスよく評価できるような考え方を身につけていくことで、気持ちの落ち込みが緩和され、より前向きに状況を捉えられるようになることがあります。
その他にもさまざまな理由で落ち込んでしまうことも
今回は「自分に価値がなくなったように感じてしまう」事例についてご紹介しましたが、その他にも「もう二度とまともな仕事に就けないと絶望してしまう」「家にいる時間が長いとネガティブ思考でいっぱいになってしまう」「仕事に就いているいる友人や以前の同僚を妬ましく思ってしまう」等、その他さまざまな理由で離職をきっかけに落ち込んでしまうことがあります。
そうした落ち込みが強い場合には、一人で落ち込まずに周りの友人や家族、専門家に相談してみましょう。
次回の記事では、キャリアの中断をプラスに変えよう!をお届けします。
心理についてもっと知りたい方は、『米国ニューヨーク州公認心理士 長谷川由紀のブログ』も合わせてぜひご覧ください。